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万叶集 十二卷 古日语原文 1

第十二巻

正述心緒





2841

[題詞]正述心緒


[原文]我背子之 朝明形 吉不見 今日間 戀暮鴨

[訓読]我が背子が朝明の姿よく見ずて今日の間を恋ひ暮らすかも

[仮名],わがせこが,あさけのすがた,よくみずて,けふのあひだを,こひくらすかも

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,女歌,恋情,後朝




2842

[題詞](正述心緒)


[原文]我心 等望使念 新夜 一夜不落 夢見<与>

[訓読]我が心ともしみ思ふ新夜の一夜もおちず夢に見えこそ

[仮名],あがこころ,ともしみおもふ,あらたよの,ひとよもおちず,いめにみえこそ

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]<> 

 与 [新訓]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,女歌,恋情




2843

[題詞](正述心緒)


[原文]<愛> 我念妹 人皆 如去見耶 手不纒為

[訓読]愛しと我が思ふ妹を人皆の行くごと見めや手にまかずして

[仮名],うつくしと,あがおもふいもを,ひとみなの,ゆくごとみめや,てにまかずして

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]与愛 

 愛 [新訓]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情




2844

[題詞](正述心緒)


[原文]<比>日 寐之不寐 敷細布 手枕纒 寐欲

[訓読]このころの寐の寝らえぬは敷栲の手枕まきて寝まく欲りこそ

[仮名],このころの,いのねらえぬは,しきたへの,たまくらまきて,ねまくほりこそ

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]此 

 比 [西(朱筆訂正)][元][紀][細]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情,枕詞




2845

[題詞](正述心緒)


[原文]<忘>哉 語 意遣 雖過不過 猶戀

[訓読]忘るやと物語りして心遣り過ぐせど過ぎずなほ恋ひにけり

[仮名],わするやと,ものがたりして,こころやり,すぐせどすぎず,なほこひにけり

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]忌 

 忘 [細][温][矢][京]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情




2846

[題詞](正述心緒)


[原文]夜不寐 安不有 白細布 衣不脱 及直相

[訓読]夜も寝ず安くもあらず白栲の衣は脱かじ直に逢ふまでに

[仮名],よるもねず,やすくもあらず,しろたへの,ころもはぬかじ,ただにあふまでに

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情




2847

[題詞](正述心緒)


[原文]後相 吾莫戀 妹雖云 戀間 年經乍

[訓読]後も逢はむ我にな恋ひそと妹は言へど恋ふる間に年は経につつ

[仮名],のちもあはむ,われになこひそと,いもはいへど,こふるあひだに,としはへにつつ

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情




2848

[題詞](正述心緒)


[原文]不直<相> 有諾 夢谷 何人 事繁 [或本歌曰 <寤>者 諾毛不相 夢左倍]

[訓読]直に会はずあるはうべなり夢にだに何しか人の言の繁けむ [或本歌曰 うつつにはうべも逢はなく夢にさへ]

[仮名],ただにあはず,あるはうべなり,いめにだに,なにしかひとの,ことのしげけむ,[うつつには,うべもあはなく,いめにさへ]

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]相者 

 相 [元][紀][細][温] / 寝 
 寤 [万葉拾穂抄]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,異伝,,恋情,うわさ




2849

[題詞](正述心緒)


[原文]烏玉 彼夢 見継哉 袖乾日無 吾戀矣

[訓読]ぬばたまのその夢にだに見え継ぐや袖干る日なく我れは恋ふるを

[仮名],ぬばたまの,そのいめにだに,みえつぐや,そでふるひなく,あれはこふるを

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情




2850

[題詞](正述心緒)


[原文]現 直不相 夢谷 相見与 我戀國

[訓読]うつつには直には逢はず夢にだに逢ふと見えこそ我が恋ふらくに

[仮名],うつつには,ただにはあはず,いめにだに,あふとみえこそ,あがこふらくに

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情




寄物陳思





2851

[題詞]寄物陳思


[原文]人所見 表結 人不見 裏紐開 戀日太

[訓読]人の見る上は結びて人の見ぬ下紐開けて恋ふる日ぞ多き

[仮名],ひとのみる,うへはむすびて,ひとのみぬ,したひもあけて,こふるひぞおほき

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情,人目,女歌




2852

[題詞](寄物陳思)


[原文]人言 繁時 吾妹 衣有 裏服矣

[訓読]人言の繁き時には我妹子し衣にありせば下に着ましを

[仮名],ひとごとの,しげきときには,わぎもこし,ころもにありせば,したにきましを

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,うわさ,恋情




2853

[題詞](寄物陳思)


[原文]真珠<服> 遠兼 念 一重衣 一人服寐

[訓読]真玉つくをちをし兼ねて思へこそ一重の衣ひとり着て寝れ

[仮名],またまつく,をちをしかねて,おもへこそ,ひとへのころも,ひとりきてぬれ

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]眼 

 服 [古]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情




2854

[題詞](寄物陳思)


[原文]白細布 我紐緒 不絶間 戀結為 及相日

[訓読]白栲の我が紐の緒の絶えぬ間に恋結びせむ逢はむ日までに

[仮名],しろたへの,わがひものをの,たえぬまに,こひむすびせむ,あはむひまでに

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情




2855

[題詞](寄物陳思)


[原文]新<治> 今作路 清 聞鴨 妹於事矣

[訓読]新治の今作る道さやかにも聞きてけるかも妹が上のことを

[仮名],にひはりの,いまつくるみち,さやかにも,ききてけるかも,いもがうへのことを

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]治 [西(上書訂正)][類][古][紀]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,序詞,恋情,うわさ




2856

[題詞](寄物陳思)


[原文]山代 石田<社> 心鈍 手向為在 妹相難

[訓読]山背の石田の社に心おそく手向けしたれや妹に逢ひかたき

[仮名],やましろの,いはたのもりに,こころおそく,たむけしたれや,いもにあひかたき

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]杜 

 社 [西(朱書訂正)][類][紀][温]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,地名,京都府,伏見,恋情




2857

[題詞](寄物陳思)


[原文]菅根之 惻隠々々 照日 乾哉吾袖 於妹不相為

[訓読]菅の根のねもころごろに照る日にも干めや我が袖妹に逢はずして

[仮名],すがのねの,ねもころごろに,てるひにも,ひめやわがそで,いもにあはずして

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,植物,恋情




2858

[題詞](寄物陳思)


[原文]妹戀 不寐朝 吹風 妹經者 吾与經

[訓読]妹に恋ひ寐ねぬ朝明に吹く風は妹にし触れば我れさへに触れ

[仮名],いもにこひ,いねぬあさけに,ふくかぜは,いもにしふれば,われさへにふれ

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]与 [細] 共

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情




2859

[題詞](寄物陳思)


[原文]飛鳥川 高川避紫 越来 信今夜 不明行哉

[訓読]明日香川高川避かし越ゑ来しをまこと今夜は明けずも行かぬか

[仮名],あすかがは,たかがはよさし,こゑこしを,まことこよひは,あけずもゆかぬか

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]高 (塙)(楓) 奈 / 避紫 [万葉集新考](塙)(楓) 柴避

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,地名,明日香,奈良県,恋愛,川渡り,難渋




2860

[題詞](寄物陳思)


[原文]八<釣>川 水底不絶 行水 續戀 是比歳 [或本歌曰 水尾母不絶]

[訓読]八釣川水底絶えず行く水の継ぎてぞ恋ふるこの年ころを [或本歌曰 水脈も絶えせず]

[仮名],やつりがは,みなそこたえず,ゆくみづの,つぎてぞこふる,このとしころを,[みをもたえせず]

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]鈎 

 釣 [紀][温]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,地名,明日香,奈良県,異伝,恋情,序詞




2861

[題詞](寄物陳思)


[原文]礒上 生小松 名惜 人不知 戀渡鴨

[訓読]礒の上に生ふる小松の名を惜しみ人に知らえず恋ひわたるかも

[仮名],いそのうへに,おふるこまつの,なををしみ,ひとにしらえず,こひわたるかも

[左注]或本歌曰 巌上尓 立小松 名惜 人尓者不云 戀渡鴨 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,人目,うわさ,恋情,序詞




2861S

[題詞](寄物陳思)或本歌曰


[原文]巌上尓 立小松 名惜 人尓者不云 戀渡鴨

[訓読]岩の上に立てる小松の名を惜しみ人には言はず恋ひわたるかも

[仮名],いはのうへに,たてるこまつの,なををしみ,ひとにはいはず,こひわたるかも

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,序詞,植物,人目,うわさ,恋情,異伝




2862

[題詞](寄物陳思)


[原文]山川 水陰生 山草 不止妹 所念鴨

[訓読]山川の水陰に生ふる山菅のやまずも妹は思ほゆるかも

[仮名],やまがはの,みづかげにおふる,やますげの,やまずもいもは,おもほゆるかも

[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,序詞,恋情




2863

[題詞](寄物陳思)


[原文]淺葉野 立神古 菅根 惻隠誰故 吾不戀 [或本歌曰 誰葉野尓 立志奈比垂]

[訓読]浅葉野に立ち神さぶる菅の根のねもころ誰がゆゑ我が恋ひなくに [或本歌曰 誰が葉野に立ちしなひたる]

[仮名],あさはのに,たちかむさぶる,すがのねの,ねもころたがゆゑ,あがこひなくに,[たがはのに,たちしなひたる]

[左注]右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,序詞,恋情,異伝




正述心緒





2864

[題詞]正述心緒


[原文]吾背子乎 且今々々跡 待居尓 夜更深去者 嘆鶴鴨

[訓読]我が背子を今か今かと待ち居るに夜の更けゆけば嘆きつるかも

[仮名],わがせこを,いまかいまかと,まちゐるに,よのふけゆけば,なげきつるかも

[左注]

[校異]

[KW],恋情,女歌




2865

[題詞](正述心緒)


[原文]玉釼 巻宿妹母 有者許増 夜之長毛 歡有倍吉

[訓読]玉釧まき寝る妹もあらばこそ夜の長けくも嬉しくあるべき

[仮名],たまくしろ,まきぬるいもも,あらばこそ,よのながけくも,うれしくあるべき

[左注]

[校異]

[KW],恋愛




2866

[題詞](正述心緒)


[原文]人妻尓 言者誰事 酢衣乃 此紐解跡 言者孰言

[訓読]人妻に言ふは誰が言さ衣のこの紐解けと言ふは誰が言

[仮名],ひとづまに,いふはたがこと,さごろもの,このひもとけと,いふはたがこと

[左注]

[校異]

[KW],女歌,歌謡




2867

[題詞](正述心緒)


[原文]如是許 将戀物其跡 知者 其夜者由多尓 有益物乎

[訓読]かくばかり恋ひむものぞと知らませばその夜はゆたにあらましものを

[仮名],かくばかり,こひむものぞと,しらませば,そのよはゆたに,あらましものを

[左注]

[校異]

[KW],恋情,未練




2868

[題詞](正述心緒)


[原文]戀乍毛 後将相跡 思許増 己命乎 長欲為礼

[訓読]恋ひつつも後も逢はむと思へこそおのが命を長く欲りすれ

[仮名],こひつつも,のちもあはむと,おもへこそ,おのがいのちを,ながくほりすれ

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2869

[題詞](正述心緒)


[原文]今者吾者 将死与吾妹 不相而 念渡者 安毛無

[訓読]今は我は死なむよ我妹逢はずして思ひわたれば安けくもなし

[仮名],いまはわは,しなむよわぎも,あはずして,おもひわたれば,やすけくもなし

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2870

[題詞](正述心緒)


[原文]我背子之 将来跡語之 夜者過去 思咲八更々 思許理来目八面

[訓読]我が背子が来むと語りし夜は過ぎぬしゑやさらさらしこり来めやも

[仮名],わがせこが,こむとかたりし,よはすぎぬ,しゑやさらさら,しこりこめやも

[左注]

[校異]

[KW],女歌,怨恨,恋愛




2871

[題詞](正述心緒)


[原文]人言之 讒乎聞而 玉<桙>之 道毛不相常 云吾妹

[訓読]人言の讒しを聞きて玉桙の道にも逢はじと言へりし我妹

[仮名],ひとごとの,よこしをききて,たまほこの,みちにもあはじと,いへりしわぎも

[左注]

[校異]杵 

 桙 [細][温][矢][京]

[KW],うわさ,枕詞,恋愛




2872

[題詞](正述心緒)


[原文]不相毛 懈常念者 弥益二 人言繁 所聞来可聞

[訓読]逢はなくも憂しと思へばいや増しに人言繁く聞こえ来るかも

[仮名],あはなくも,うしとおもへば,いやましに,ひとごとしげく,きこえくるかも

[左注]

[校異]

[KW],うわさ,恋愛




2873

[題詞](正述心緒)


[原文]里人毛 謂告我祢 縦咲也思 戀而毛将死 誰名将有哉

[訓読]里人も語り継ぐがねよしゑやし恋ひても死なむ誰が名ならめや

[仮名],さとびとも,かたりつぐがね,よしゑやし,こひてもしなむ,たがなならめや

[左注]

[校異]

[KW],うわさ,人目,恋愛




2874

[題詞](正述心緒)


[本文]り 使乎無跡 情乎曽 使尓遣之 夢所見哉

[訓読]確かなる使をなみと心をぞ使に遣りし夢に見えきや

[仮名],たしかなる,つかひをなみと,こころをぞ,つかひにやりし,いめにみえきや

[左注]

[校異]

[KW],恋愛




2875

[題詞](正述心緒)


[原文]天地尓 小不至 大夫跡 思之吾耶 <雄>心毛無寸

[訓読]天地に少し至らぬ大夫と思ひし我れや雄心もなき

[仮名],あめつちに,すこしいたらぬ,ますらをと,おもひしわれや,をごころもなき

[左注]

[校異]雄 [西(上書訂正)][元][紀][細][温]

[KW],恋情




2876

[題詞](正述心緒)


[原文]里近 家<哉>應居 此吾目之 人目乎為乍 戀繁口

[訓読]里近く家や居るべきこの我が目の人目をしつつ恋の繁けく

[仮名],さとちかく,いへやをるべき,このわがめの,ひとめをしつつ,こひのしげけく

[左注]

[校異]武 

 哉 [西(右書訂正)][元][紀][細][温] / 目之 [元] 目

[KW],うわさ,人目,恋情




2877

[題詞](正述心緒)


[原文]何時奈毛 不<戀>有登者 雖不有 得田直比来 戀之繁母

[訓読]いつはなも恋ひずありとはあらねどもうたてこのころ恋し繁しも

[仮名],いつはなも,こひずありとは,あらねども,うたてこのころ,こひししげしも

[左注]

[校異]戀奈毛 

 戀 [西(訂正)][紀][細][温]

[KW],恋情




2878

[題詞](正述心緒)


[原文]黒玉之 宿而之晩乃 物念尓 割西る者 息時裳無

[訓読]ぬばたまの寐ねてし宵の物思ひに裂けにし胸はやむ時もなし

[仮名],ぬばたまの,いねてしよひの,ものもひに,さけにしむねは,やむときもなし

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情




2879

[題詞](正述心緒)


[原文]三空去 名之惜毛 吾者無 不相日數多 年之經者

[訓読]み空行く名の惜しけくも我れはなし逢はぬ日まねく年の経ぬれば

[仮名],みそらゆく,なのをしけくも,われはなし,あはぬひまねく,としのへぬれば

[左注]

[校異]

[KW],うわさ,恋情




2880

[題詞](正述心緒)


[原文]得管二毛 今毛見<壮>鹿 夢耳 手本纒宿登 見者辛苦毛 [或本歌發<句>曰 吾妹兒乎]

[訓読]うつつにも今も見てしか夢のみに手本まき寝と見るは苦しも [或本歌發<句>曰 我妹子を]

[仮名],うつつにも,いまもみてしか,いめのみに,たもとまきぬと,みるはくるしも,[わぎもこを]

[左注]

[校異]社 

 壮 [元][細][紀] / 勺 
 句 [元][紀][細]

[KW],異伝,恋情




2881

[題詞](正述心緒)


[原文]立而居 為便乃田時毛 今者無 妹尓不相而 月之經去者 [或本歌曰 君之目不見而 月之經去者]

[訓読]立ちて居てすべのたどきも今はなし妹に逢はずて月の経ぬれば [或本歌曰 君が目見ずて月の経ぬれば]

[仮名],たちてゐて,すべのたどきも,いまはなし,いもにあはずて,つきのへぬれば,[きみがめみずて,つきのへぬれば]

[左注]

[校異]

[KW],異伝,恋情




2882

[題詞](正述心緒)


[原文]不相而 戀度等母 忘哉 弥日異者 思益等母

[訓読]逢はずして恋ひわたるとも忘れめやいや日に異には思ひ増すとも

[仮名],あはずして,こひわたるとも,わすれめや,いやひにけには,おもひますとも

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2883

[題詞](正述心緒)


[原文]外目毛 君之光儀乎 見而者社 吾戀山目 命不死者 [一云 壽向 吾戀止目]

[訓読]外目にも君が姿を見てばこそ我が恋やまめ命死なずは [一云 命に向ふ我が恋やまめ]

[仮名],よそめにも,きみがすがたを,みてばこそ,あがこひやまめ,いのちしなずは,[いのちにむかふ,あがこひやまめ]

[左注]

[校異]

[KW],恋情,異伝




2884

[題詞](正述心緒)


[原文]戀管母 今日者在目杼 玉匣 将開明日 如何将暮

[訓読]恋ひつつも今日はあらめど玉櫛笥明けなむ明日をいかに暮らさむ

[仮名],こひつつも,けふはあらめど,たまくしげ,あけなむあすを,いかにくらさむ

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情




2885

[題詞](正述心緒)


[原文]左夜深而 妹乎念出 布妙之 枕毛衣世二 <嘆>鶴鴨

[訓読]さ夜更けて妹を思ひ出で敷栲の枕もそよに嘆きつるかも

[仮名],さよふけて,いもをおもひいで,しきたへの,まくらもそよに,なげきつるかも

[左注]

[校異]歎 

 嘆 [元][紀][細][温]

[KW],枕詞,恋情




2886

[題詞](正述心緒)


[原文]他言者 真言痛 成友 彼所将障 吾尓不有國

[訓読]人言はまこと言痛くなりぬともそこに障らむ我れにあらなくに

[仮名],ひとごとは,まことこちたく,なりぬとも,そこにさはらむ,われにあらなくに

[左注]

[校異]

[KW],うわさ,恋情




2887

[題詞](正述心緒)


[原文]立居 田時毛不知 吾意 天津空有 土者踐鞆

[訓読]立ちて居てたどきも知らず我が心天つ空なり地は踏めども

[仮名],たちてゐて,たどきもしらず,あがこころ,あまつそらなり,つちはふめども

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2888

[題詞](正述心緒)


[原文]世間之 人辞常 所念莫 真曽戀之 不相日乎多美

[訓読]世の中の人のことばと思ほすなまことぞ恋ひし逢はぬ日を多み

[仮名],よのなかの,ひとのことばと,おもほすな,まことぞこひし,あはぬひをおほみ

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2889

[題詞](正述心緒)


[原文]乞如何 吾幾許戀流 吾妹子之 不相跡言流 事毛有莫國

[訓読]いで如何に我がここだ恋ふる我妹子が逢はじと言へることもあらなくに

[仮名],いでいかに,あがここだこふる,わぎもこが,あはじといへる,こともあらなくに

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2890

[題詞](正述心緒)


[原文]夜干玉之 夜乎長鴨 吾背子之 夢尓夢西 所見還良武

[訓読]ぬばたまの夜を長みかも我が背子が夢に夢にし見えかへるらむ

[仮名],ぬばたまの,よをながみかも,わがせこが,いめにいめにし,みえかへるらむ

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情




2891

[題詞](正述心緒)


[原文]荒玉之 年緒長 如此戀者 信吾命 全有目八面

[訓読]あらたまの年の緒長くかく恋ひばまこと我が命全くあらめやも

[仮名],あらたまの,としのをながく,かくこひば,まことわがいのち,またくあらめやも

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情




2892

[題詞](正述心緒)


[原文]思遣 為便乃田時毛 吾者無 不相數多 月之經去者

[訓読]思ひ遣るすべのたどきも我れはなし逢はずてまねく月の経ぬれば

[仮名],おもひやる,すべのたどきも,われはなし,あはずてまねく,つきのへぬれば

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2893

[題詞](正述心緒)


[原文]朝去而 暮者来座 君故尓 忌々久毛吾者 歎鶴鴨

[訓読]朝去にて夕は来ます君ゆゑにゆゆしくも我は嘆きつるかも

[仮名],あしたいにて,ゆふへはきます,きみゆゑに,ゆゆしくもわは,なげきつるかも

[左注]

[校異]

[KW],恋情,女歌




2894

[題詞](正述心緒)


[原文]従聞 物乎念者 我る者 破而摧而 鋒心無

[訓読]聞きしより物を思へば我が胸は破れて砕けて利心もなし

[仮名],ききしより,ものをおもへば,あがむねは,われてくだけて,とごころもなし

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2895

[題詞](正述心緒)


[原文]人言乎 繁三言痛三 我妹子二 去月従 未相可母

[訓読]人言を繁み言痛み我妹子に去にし月よりいまだ逢はぬかも

[仮名],ひとごとを,しげみこちたみ,わぎもこに,いにしつきより,いまだあはぬかも

[左注]

[校異]

[KW],うわさ,恋情




2896

[題詞](正述心緒)


[原文]歌方毛 曰管毛有鹿 吾有者 地庭不落 空消生

[訓読]うたがたも言ひつつもあるか我れならば地には落ちず空に消なまし

[仮名],うたがたも,いひつつもあるか,われならば,つちにはおちず,そらにけなまし

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2897

[題詞](正述心緒)


[原文]何 日之時可毛 吾妹子之 裳引之容儀 朝尓食尓将見

[訓読]いかならむ日の時にかも我妹子が裳引きの姿朝に日に見む

[仮名],いかならむ,ひのときにかも,わぎもこが,もびきのすがた,あさにけにみむ

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2898

[題詞](正述心緒)


[原文]獨居而 戀者辛苦 玉手次 不懸将忘 言量欲

[訓読]ひとり居て恋ふるは苦し玉たすき懸けず忘れむ事計りもが

[仮名],ひとりゐて,こふるはくるし,たまたすき,かけずわすれむ,ことはかりもが

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情




2899

[題詞](正述心緒)


[原文]中々二 黙然毛有申尾 小豆無 相見始而毛 吾者戀香

[訓読]なかなかに黙もあらましをあづきなく相見そめても我れは恋ふるか

[仮名],なかなかに,もだもあらましを,あづきなく,あひみそめても,あれはこふるか

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2900

[題詞](正述心緒)


[原文]吾妹子之 咲眉引 面影 懸而本名 所念可毛

[訓読]我妹子が笑まひ眉引き面影にかかりてもとな思ほゆるかも

[仮名],わぎもこが,ゑまひまよびき,おもかげに,かかりてもとな,おもほゆるかも

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2901

[題詞](正述心緒)


[原文]赤根指 日之暮去者 為便乎無三 千遍嘆而 戀乍曽居

[訓読]あかねさす日の暮れゆけばすべをなみ千たび嘆きて恋ひつつぞ居る

[仮名],あかねさす,ひのくれゆけば,すべをなみ,ちたびなげきて,こひつつぞをる

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情




2902

[題詞](正述心緒)


[原文]吾戀者 夜晝不別 百重成 情之念者 甚為便無

[訓読]我が恋は夜昼わかず百重なす心し思へばいたもすべなし

[仮名],あがこひは,よるひるわかず,ももへなす,こころしおもへば,いたもすべなし

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2903

[題詞](正述心緒)


[原文]五十殿寸太 薄寸眉根乎 徒 令掻管 不相人可母

[訓読]いとのきて薄き眉根をいたづらに掻かしめつつも逢はぬ人かも

[仮名],いとのきて,うすきまよねを,いたづらに,かかしめつつも,あはぬひとかも

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2904

[題詞](正述心緒)


[原文]戀々而 後裳将相常 名草漏 心四無者 五十寸手有目八面

[訓読]恋ひ恋ひて後も逢はむと慰もる心しなくは生きてあらめやも

[仮名],こひこひて,のちもあはむと,なぐさもる,こころしなくは,いきてあらめやも

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2905

[題詞](正述心緒)


[原文]幾 不生有命乎 戀管曽 吾者氣衝 人尓不所知

[訓読]いくばくも生けらじ命を恋ひつつぞ我れは息づく人に知らえず

[仮名],いくばくも,いけらじいのちを,こひつつぞ,われはいきづく,ひとにしらえず

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2906

[題詞](正述心緒)


[原文]他國尓 結婚尓行而 大刀之緒毛 未解者 左夜曽明家流

[訓読]他国によばひに行きて大刀が緒もいまだ解かねばさ夜ぞ明けにける

[仮名],ひとくにに,よばひにゆきて,たちがをも,いまだとかねば,さよぞあけにける

[左注]

[校異]

[KW],恋愛




2907

[題詞](正述心緒)


[原文]大夫之 <聡>神毛 今者無 戀之奴尓 吾者可死

[訓読]ますらをの聡き心も今はなし恋の奴に我れは死ぬべし

[仮名],ますらをの,さときこころも,いまはなし,こひのやつこに,われはしぬべし

[左注]

[校異]聴 

 聡 [西(訂正頭書)][元][紀][細][温]

[KW],恋情




2908

[題詞](正述心緒)


[原文]常如是 戀者辛苦 ま毛 心安目六 事計為与

[訓読]常かくし恋ふれば苦ししましくも心休めむ事計りせよ

[仮名],つねかくし,こふればくるし,しましくも,こころやすめむ,ことはかりせよ

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2909

[題詞](正述心緒)


[原文]凡尓 吾之念者 人妻尓 有云妹尓 戀管有米也

[訓読]おほろかに我れし思はば人妻にありといふ妹に恋ひつつあらめや

[仮名],おほろかに,われしおもはば,ひとづまに,ありといふいもに,こひつつあらめや

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2910

[題詞](正述心緒)


[原文]心者 千重百重 思有杼 人目乎多見 妹尓不相可母

[訓読]心には千重に百重に思へれど人目を多み妹に逢はぬかも

[仮名],こころには,ちへにももへに,おもへれど,ひとめをおほみ,いもにあはぬかも

[左注]

[校異]

[KW],恋情,人目,うわさ




2911

[題詞](正述心緒)


[原文]人目多見 眼社忍礼 小毛 心中尓 吾念莫國

[訓読]人目多み目こそ忍ぶれすくなくも心のうちに我が思はなくに

[仮名],ひとめおほみ,めこそしのぶれ,すくなくも,こころのうちに,わがおもはなくに

[左注]

[校異]

[KW],人目,うわさ,恋情




2912

[題詞](正述心緒)


[原文]人見而 事害目不為 夢尓吾 今夜将至 屋戸閇勿勤

[訓読]人の見て言とがめせぬ夢に我れ今夜至らむ宿閉すなゆめ

[仮名],ひとのみて,こととがめせぬ,いめにわれ,こよひいたらむ,やどさすなゆめ

[左注]

[校異]

[KW],人目,うわさ,恋情




2913

[題詞](正述心緒)


[原文]何時左右二 将生命曽 凡者 戀乍不有者 死上有

[訓読]いつまでに生かむ命ぞおほかたは恋ひつつあらずは死なましものを

[仮名],いつまでに,いかむいのちぞ,おほかたは,こひつつあらずは,しなましものを

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2914

[題詞](正述心緒)


[原文]<愛>等 念吾妹乎 夢見而 起而探尓 無之不怜

[訓読]愛しと思ふ我妹を夢に見て起きて探るになきが寂しさ

[仮名],うつくしと,おもふわぎもを,いめにみて,おきてさぐるに,なきがさぶしさ

[左注]

[校異]愛 [西(上書訂正)][元][紀][細][温]

[KW],恋情,遊仙窟




2915

[題詞](正述心緒)


[原文]妹登曰者 無礼恐 然為蟹 懸巻欲 言尓有鴨

[訓読]妹と言はばなめし畏ししかすがに懸けまく欲しき言にあるかも

[仮名],いもといはば,なめしかしこし,しかすがに,かけまくほしき,ことにあるかも

[左注]

[校異]

[KW],恋愛




2916

[題詞](正述心緒)


[原文]玉勝間 相登云者 誰有香 相有時左倍 面隠為

[訓読]玉かつま逢はむと言ふは誰れなるか逢へる時さへ面隠しする

[仮名],たまかつま,あはむといふは,たれなるか,あへるときさへ,おもかくしする

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋愛




2917

[題詞](正述心緒)


[原文]寤香 妹之来座有 夢可毛 吾香惑流 戀之繁尓

[訓読]うつつにか妹が来ませる夢にかも我れか惑へる恋の繁きに

[仮名],うつつにか,いもがきませる,いめにかも,われかまとへる,こひのしげきに

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2918

[題詞](正述心緒)


[原文]大方者 何鴨将戀 言擧不為 妹尓依宿牟 年者近<綬>

[訓読]おほかたは何かも恋ひむ言挙げせず妹に寄り寝む年は近きを

[仮名],おほかたは,なにかもこひむ,ことあげせず,いもによりねむ,としはちかきを

[左注]

[校異]絞 

 綬 [元][紀][矢][京]

[KW],恋情




2919

[題詞](正述心緒)


[原文]二為而 結之紐乎 一為而 吾者解不見 直相及者

[訓読]ふたりして結びし紐をひとりして我れは解きみじ直に逢ふまでは

[仮名],ふたりして,むすびしひもを,ひとりして,あれはときみじ,ただにあふまでは

[左注]

[校異]

[KW],恋情,羈旅




2920

[題詞](正述心緒)


[原文]終命 此者不念 唯毛 妹尓不相 言乎之曽念

[訓読]終へむ命ここは思はずただしくも妹に逢はざることをしぞ思ふ

[仮名],をへむいのち,ここはおもはず,ただしくも,いもにあはざる,ことをしぞおもふ

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2921

[題詞](正述心緒)


[原文]幼婦者 同情 須臾 止時毛無久 将見等曽念

[訓読]たわや女は同じ心にしましくもやむ時もなく見てむとぞ思ふ

[仮名],たわやめは,おやじこころに,しましくも,やむときもなく,みてむとぞおもふ

[左注]

[校異]

[KW],恋情,女歌




2922

[題詞](正述心緒)


[原文]夕去者 於君将相跡 念許<増> 日之晩毛 れ有家礼

[訓読]夕さらば君に逢はむと思へこそ日の暮るらくも嬉しくありけれ

[仮名],ゆふさらば,きみにあはむと,おもへこそ,ひのくるらくも,うれしくありけれ

[左注]

[校異]憎 

 増 [元][紀][温][京]

[KW],恋情,女歌




2923

[題詞](正述心緒)


[原文]直今日毛 君尓波相目跡 人言乎 繁不相而 戀度鴨

[訓読]ただ今日も君には逢はめど人言を繁み逢はずて恋ひわたるかも

[仮名],ただけふも,きみにはあはめど,ひとごとを,しげみあはずて,こひわたるかも

[左注]

[校異]

[KW],恋情,うわさ,女歌




2924

[題詞](正述心緒)


[原文]世間尓 戀将繁跡 不念者 君之手本乎 不枕夜毛有寸

[訓読]世の中に恋繁けむと思はねば君が手本をまかぬ夜もありき

[仮名],よのなかに,こひしげけむと,おもはねば,きみがたもとを,まかぬよもありき

[左注]

[校異]

[KW],恋情,女歌




2925

[題詞](正述心緒)


[原文]緑兒之 為社乳母者 求云 乳飲哉君之 於毛求覧

[訓読]みどり子のためこそ乳母は求むと言へ乳飲めや君が乳母求むらむ

[仮名],みどりこの,ためこそおもは,もとむといへ,ちのめやきみが,おももとむらむ

[左注]

[校異]社 [西(訂正)] 杜

[KW],恋愛,女歌,戯歌




2926

[題詞](正述心緒)


[原文]悔毛 老尓来鴨 我背子之 求流乳母尓 行益物乎

[訓読]悔しくも老いにけるかも我が背子が求むる乳母に行かましものを

[仮名],くやしくも,おいにけるかも,わがせこが,もとむるおもに,ゆかましものを

[左注]

[校異]

[KW],恋愛,戯歌




2927

[題詞](正述心緒)


[原文]浦觸而 可例西袖S 又巻者 過西戀<以> 乱今可聞

[訓読]うらぶれて離れにし袖をまたまかば過ぎにし恋い乱れ来むかも

[仮名],うらぶれて,かれにしそでを,またまかば,すぎにしこひい,みだれこむかも

[左注]

[校異]也 

 以 [元]

[KW],恋情




2928

[題詞](正述心緒)


[原文]各寺師 人死為良思 妹尓戀 日異羸沼 人丹不所知

[訓読]おのがじし人死にすらし妹に恋ひ日に異に痩せぬ人に知らえず

[仮名],おのがじし,ひとしにすらし,いもにこひ,ひにけにやせぬ,ひとにしらえず

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2929

[題詞](正述心緒)


[原文]夕々 吾立待尓 若雲 君不来益者 應辛苦

[訓読]宵々に我が立ち待つにけだしくも君来まさずは苦しかるべし

[仮名],よひよひに,わがたちまつに,けだしくも,きみきまさずは,くるしかるべし

[左注]

[校異]

[KW],恋情,女歌




2930

[題詞](正述心緒)


[原文]生代尓 戀云物乎 相不見者 戀中尓毛 吾曽苦寸

[訓読]生ける世に恋といふものを相見ねば恋のうちにも我れぞ苦しき

[仮名],いけるよに,こひといふものを,あひみねば,こひのうちにも,われぞくるしき

[左注]

[校異]

[KW],恋情,女歌




2931

[題詞](正述心緒)


[原文]念管 座者苦毛 夜干玉之 夜尓至者 吾社湯龜

[訓読]思ひつつ居れば苦しもぬばたまの夜に至らば我れこそ行かめ

[仮名],おもひつつ,をればくるしも,ぬばたまの,よるにいたらば,われこそゆかめ

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,女歌,恋情




2932

[題詞](正述心緒)


[原文]情庭 燎而念杼 虚蝉之 人目乎繁 妹尓不相鴨

[訓読]心には燃えて思へどうつせみの人目を繁み妹に逢はぬかも

[仮名],こころには,もえておもへど,うつせみの,ひとめをしげみ,いもにあはぬかも

[左注]

[校異]

[KW],人目,うわさ,恋情




2933

[題詞](正述心緒)


[原文]不相念 公者雖座 肩戀丹 吾者衣戀 君之光儀

[訓読]相思はず君はまさめど片恋に我れはぞ恋ふる君が姿に

[仮名],あひおもはず,きみはまさめど,かたこひに,あれはぞこふる,きみがすがたに

[左注]

[校異]

[KW],恋情,女歌




2934

[題詞](正述心緒)


[原文]味澤相 目者非不飽 携 不問事毛 苦勞有来

[訓読]あぢさはふ目は飽かざらねたづさはり言とはなくも苦しくありけり

[仮名],あぢさはふ,めはあかざらね,たづさはり,こととはなくも,くるしくありけり

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情




2935

[題詞](正述心緒)


[原文]璞之 年緒永 何時左右鹿 我戀将居 壽不知而

[訓読]あらたまの年の緒長くいつまでか我が恋ひ居らむ命知らずて

[仮名],あらたまの,としのをながく,いつまでか,あがこひをらむ,いのちしらずて

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情




2936

[題詞](正述心緒)


[原文]今者吾者 指南与我兄 戀為者 一夜一日毛 安毛無

[訓読]今は我は死なむよ我が背恋すれば一夜一日も安けくもなし

[仮名],いまはわは,しなむよわがせ,こひすれば,ひとよひとひも,やすけくもなし

[左注]

[校異]

[KW],恋情,女歌




2937

[題詞](正述心緒)


[原文]白細布之 袖<折>反 戀者香 妹之容儀乃 夢二四三湯流

[訓読]白栲の袖折り返し恋ふればか妹が姿の夢にし見ゆる

[仮名],しろたへの,そでをりかへし,こふればか,いもがすがたの,いめにしみゆる

[左注]

[校異]打 

 折 [元][紀][細][温]

[KW],枕詞,恋情




2938

[題詞](正述心緒)


[原文]人言乎 繁三毛人髪三 我兄子乎 目者雖見 相因毛無

[訓読]人言を繁み言痛み我が背子を目には見れども逢ふよしもなし

[仮名],ひとごとを,しげみこちたみ,わがせこを,めにはみれども,あふよしもなし

[左注]

[校異]

[KW],うわさ,女歌,恋情




2939

[題詞](正述心緒)


[原文]戀云者 薄事有 雖然 我者不忘 戀者死十万

[訓読]恋と言へば薄きことなりしかれども我れは忘れじ恋ひは死ぬとも

[仮名],こひといへば,うすきことなり,しかれども,われはわすれじ,こひはしぬとも

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2940

[題詞](正述心緒)


[原文]中々二 死者安六 出日之 入別不知 吾四九流四毛

[訓読]なかなかに死なば安けむ出づる日の入る別知らぬ我れし苦しも

[仮名],なかなかに,しなばやすけむ,いづるひの,いるわきしらぬ,われしくるしも

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2941

[題詞](正述心緒)


[原文]念八流 <跡>状毛我者 今者無 妹二不相而 年之經行者

[訓読]思ひ遣るたどきも我れは今はなし妹に逢はずて年の経ぬれば

[仮名],おもひやる,たどきもわれは,いまはなし,いもにあはずて,としのへぬれば

[左注]

[校異]<> 

 跡 [元][紀][細][温]

[KW],恋情




2942

[題詞](正述心緒)


[原文]吾兄子尓 戀跡二四有四 小兒之 夜哭乎為乍 宿不勝苦者

[訓読]我が背子に恋ふとにしあらしみどり子の夜泣きをしつつ寐ねかてなくは

[仮名],わがせこに,こふとにしあらし,みどりこの,よなきをしつつ,いねかてなくは

[左注]

[校異]

[KW],恋情,女歌




2943

[題詞](正述心緒)


[原文]我命之 長欲家口 偽乎 好為人乎 執許乎

[訓読]我が命の長く欲しけく偽りをよくする人を捕ふばかりを

[仮名],わがいのちの,ながくほしけく,いつはりを,よくするひとを,とらふばかりを

[左注]

[校異]

[KW],恋情,怨恨,戯歌




2944

[題詞](正述心緒)


[原文]人言 繁跡妹 不相 情裏 戀比日

[訓読]人言を繁みと妹に逢はずして心のうちに恋ふるこのころ

[仮名],ひとごとを,しげみといもに,あはずして,こころのうちに,こふるこのころ

[左注]

[校異]

[KW],うわさ,恋情




2945

[題詞](正述心緒)


[原文]玉<梓>之 君之使乎 待之夜乃 名凝其今毛 不宿夜乃大寸

[訓読]玉梓の君が使を待ちし夜のなごりぞ今も寐ねぬ夜の多き

[仮名],たまづさの,きみがつかひを,まちしよの,なごりぞいまも,いねぬよのおほき

[左注]

[校異]桙 

 梓 [西(左書)][元][紀][細][温]

[KW],枕詞,恋情,女歌




2946

[題詞](正述心緒)


[原文]玉桙之 道尓行相而 外目耳毛 見者吉子乎 何時鹿将待

[訓読]玉桙の道に行き逢ひて外目にも見ればよき子をいつとか待たむ

[仮名],たまほこの,みちにゆきあひて,よそめにも,みればよきこを,いつとかまたむ

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情




2947

[題詞](正述心緒)


[原文]念西 餘西鹿齒 為便乎無美 吾者五十日手寸 應忌鬼尾

[訓読]思ひにしあまりにしかばすべをなみ我れは言ひてき忌むべきものを

[仮名],おもひにし,あまりにしかば,すべをなみ,われはいひてき,いむべきものを

[左注]或本歌曰 門出而 吾反側乎 人見<監>可毛 [一云 無乏 出行 家當見] 柿本朝臣人麻呂歌集云 尓保鳥之 奈<津>柴<比>来乎 人見鴨

[校異]濫 

 監 [元][紀][細][温] / 流 
 津 [元][紀][細][温] / 汁 
 比 [西(訂正右書)][紀][細][温]

[KW],異伝,非略体,恋情,うわさ,作者:柿本人麻呂歌集




2947S1

[題詞](正述心緒)或本歌曰


[原文]門出而 吾反側乎 人見<監>可毛 [一云 無乏 出行 家當見]

[訓読]門に出でて我が臥い伏すを人見けむかも [一云 すべをなみ出でてぞ行きし家のあたり見に]

[仮名],かどにいでて,わがこいふすを,ひとみけむかも,[,すべをなみ,いでてぞゆきし,いへのあたりみに]

[左注]

[校異]

[KW],異伝,或本,恋情,うわさ,人目




2947S2

[題詞](正述心緒)柿本朝臣人麻呂歌集云


[原文]尓保鳥之 奈<津>柴<比>来乎 人見鴨

[訓読]にほ鳥のなづさひ来しを人見けむかも

[仮名]にほどりの,なづさひこしを,ひとみけむかも

[左注]

[校異]

[KW],作者:柿本人麻呂歌集,異伝,非略体,恋情,枕詞,人目




2948

[題詞](正述心緒)


[原文]明日者 其門将去 出而見与 戀有容儀 數知兼

[訓読]明日の日はその門行かむ出でて見よ恋ひたる姿あまたしるけむ

[仮名],あすのひは,そのかどゆかむ,いでてみよ,こひたるすがた,あまたしるけむ

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2949

[題詞](正述心緒)


[原文]得田價異 心欝悒 事計 吉為吾兄子 相有時谷

[訓読]うたて異に心いぶせし事計りよくせ我が背子逢へる時だに

[仮名],うたてけに,こころいぶせし,ことはかり,よくせわがせこ,あへるときだに

[左注]

[校異]

[KW],女歌,恋情




2950

[題詞](正述心緒)


[原文]吾妹子之 夜戸出乃光儀 見而之従 情空有 地者雖踐

[訓読]我妹子が夜戸出の姿見てしより心空なり地は踏めども

[仮名],わぎもこが,よとでのすがた,みてしより,こころそらなり,つちはふめども

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2951

[題詞](正述心緒)


[原文]海石榴市之 八十衢尓 立平之 結紐乎 解巻惜毛

[訓読]海石榴市の八十の街に立ち平し結びし紐を解かまく惜しも

[仮名],つばいちの,やそのちまたに,たちならし,むすびしひもを,とかまくをしも

[左注]

[校異]

[KW],地名,桜井,奈良県,恋情,歌垣




2952

[題詞](正述心緒)


[原文]吾<齡>之 衰去者 白細布之 袖乃<狎>尓思 君乎母准其念

[訓読]我が命の衰へぬれば白栲の袖のなれにし君をしぞ思ふ

[仮名],わがいのちの,おとろへぬれば,しろたへの,そでのなれにし,きみをしぞおもふ

[左注]

[校異]歯 

 齡 [紀][細][温][矢] / 押 
 狎 [細][矢][京]

[KW],枕詞,恋情,女歌




2953

[題詞](正述心緒)


[原文]戀君 吾哭<涕> 白妙 袖兼所漬 為便母奈之

[訓読]君に恋ひ我が泣く涙白栲の袖さへ漬ちてせむすべもなし

[仮名],きみにこひ,わがなくなみた,しろたへの,そでさへひちて,せむすべもなし

[左注]

[校異]泣 

 涕 [紀][細][温][矢]

[KW],枕詞,恋情,女歌




2954

[題詞](正述心緒)


[原文]従今者 不相跡為也 白妙之 我衣袖之 干時毛奈吉

[訓読]今よりは逢はじとすれや白栲の我が衣手の干る時もなき

[仮名],いまよりは,あはじとすれや,しろたへの,わがころもでの,ふるときもなき

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情,不安




2955

[題詞](正述心緒)


[原文]夢可登 情班 月數<多> 干西君之 事之通者

[訓読]夢かと心惑ひぬ月まねく離れにし君が言の通へば

[仮名],いめかと,こころまどひぬ,つきまねく,かれにしきみが,ことのかよへば

[左注]

[校異]多二 

 多 [元][温][矢][京]

[KW],恋情,女歌




2956

[題詞](正述心緒)


[原文]未玉之 年月兼而 烏玉乃 夢尓所見 君之容儀者

[訓読]あらたまの年月かねてぬばたまの夢に見えけり君が姿は

[仮名],あらたまの,としつきかねて,ぬばたまの,いめにみえけり,きみがすがたは

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情,女歌




2957

[題詞](正述心緒)


[原文]従今者 雖戀妹尓 将相<哉>母 床邊不離 夢<尓>所見乞

[訓読]今よりは恋ふとも妹に逢はめやも床の辺去らず夢に見えこそ

[仮名],いまよりは,こふともいもに,あはめやも,とこのへさらず,いめにみえこそ

[左注]

[校異]哉乃 

 哉 [元][紀][細][温] / <> 
 尓 [元]

[KW],恋情




2958

[題詞](正述心緒)


[原文]人見而 言害目不為 夢谷 不止見与 我戀将息

[訓読]人の見て言とがめせぬ夢にだにやまず見えこそ我が恋やまむ

[仮名],ひとのみて,こととがめせぬ,いめにだに,やまずみえこそ,あがこひやまむ

[左注]或本歌頭云 人目多 直者不相

[校異]

[KW],異伝,人目,うわさ,恋情




2958S

[題詞](正述心緒)或本歌頭云


[原文]人目多 直者不相

[訓読]人目多み直には逢はず

[仮名],ひとめおほみ,ただにはあはず,,,

[左注]

[校異]

[KW],異伝,人目,うわさ,恋情




2959

[題詞](正述心緒)


[原文]現者 言絶有 夢谷 嗣而所見与 直相左右二

[訓読]うつつには言も絶えたり夢にだに継ぎて見えこそ直に逢ふまでに

[仮名],うつつには,こともたえたり,いめにだに,つぎてみえこそ,ただにあふまでに

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2960

[題詞](正述心緒)


[原文]虚蝉之 宇都思情毛 吾者無 妹乎不相見而 年之經去者

[訓読]うつせみの現し心も我れはなし妹を相見ずて年の経ぬれば

[仮名],うつせみの,うつしごころも,われはなし,いもをあひみずて,としのへぬれば

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2961

[題詞](正述心緒)


[原文]虚蝉之 常辞登 雖念 継而之聞者 心遮焉

[訓読]うつせみの常のことばと思へども継ぎてし聞けば心惑ひぬ

[仮名],うつせみの,つねのことばと,おもへども,つぎてしきけば,こころまどひぬ

[左注]

[校異]

[KW],恋情




2962

[題詞](正述心緒)


[原文]白<細>之 袖不數而<宿> 烏玉之 今夜者<早毛> 明<者>将開

[訓読]白栲の袖離れて寝るぬばたまの今夜は早も明けば明けなむ

[仮名],しろたへの,そでかれてぬる,ぬばたまの,こよひははやも,あけばあけなむ

[左注]

[校異]妙 

 細 [元][紀][細][温] / <> 
 宿 [細] / 不寝 
 早毛 [西(訂正左書)][元][紀][細] / <> 
 者 [元][細]

[KW],枕詞,恋情




2963

[題詞](正述心緒)


[原文]白細之 手本寛久 人之宿 味宿者不寐哉 戀将渡

[訓読]白栲の手本ゆたけく人の寝る味寐は寝ずや恋ひわたりなむ

[仮名],しろたへの,たもとゆたけく,ひとのぬる,うまいはねずや,こひわたりなむ

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情




寄物陳思





2964

[題詞]寄物陳思


[原文]如是耳 在家流君乎 衣尓有者 下毛将著跡 <吾>念有家留

[訓読]かくのみにありける君を衣にあらば下にも着むと我が思へりける

[仮名],かくのみに,ありけるきみを,きぬにあらば,したにもきむと,わがおもへりける

[左注]

[校異]吾 [西(上書訂正)][元][類][古]

[KW],女歌,恋情,衣




2965

[題詞](寄物陳思)


[原文]橡之 袷衣 裏尓為者 吾将強八方 君之不来座

[訓読]橡の袷の衣裏にせば我れ強ひめやも君が来まさぬ

[仮名],つるはみの,あはせのころも,うらにせば,われしひめやも,きみがきまさぬ

[左注]

[校異]

[KW],女歌,恋情,怨恨,序詞,衣




2966

[題詞](寄物陳思)


[原文]紅 薄染衣 淺尓 相見之人尓 戀比日可聞

[訓読]紅の薄染め衣浅らかに相見し人に恋ふるころかも

[仮名],くれなゐの,うすそめころも,あさらかに,あひみしひとに,こふるころかも

[左注]

[校異]

[KW],衣,恋情,序詞




2967

[題詞](寄物陳思)


[原文]年之經者 見管偲登 妹之言思 衣乃<縫>目 見者哀裳

[訓読]年の経ば見つつ偲へと妹が言ひし衣の縫目見れば悲しも

[仮名],としのへば,みつつしのへと,いもがいひし,ころものぬひめ,みればかなしも

[左注]

[校異]継 

 縫 [西(訂正右書)][元][古][紀]

[KW],恋情,形見,衣,羈旅




2968

[題詞](寄物陳思)


[原文]橡之 一重衣 裏毛無 将有兒故 戀渡可聞

[訓読]橡の一重の衣うらもなくあるらむ子ゆゑ恋ひわたるかも

[仮名],つるはみの,ひとへのころも,うらもなく,あるらむこゆゑ,こひわたるかも

[左注]

[校異]

[KW],衣,恋情,序詞




2969

[題詞](寄物陳思)


[原文]解衣之 念乱而 雖戀 何之故其跡 問人毛無

[訓読]解き衣の思ひ乱れて恋ふれども何のゆゑぞと問ふ人もなし

[仮名],とききぬの,おもひみだれて,こふれども,なにのゆゑぞと,とふひともなし

[左注]

[校異]

[KW],衣,恋情,枕詞




2970

[題詞](寄物陳思)


[原文]桃花褐 淺等乃衣 淺尓 念而妹尓 将相物香裳

[訓読]桃染めの浅らの衣浅らかに思ひて妹に逢はむものかも

[仮名],ももそめの,あさらのころも,あさらかに,おもひていもに,あはむものかも

[左注]

[校異]

[KW],恋情,衣,序詞




2971

[題詞](寄物陳思)


[原文]大王之 塩焼海部乃 藤衣 穢者雖為 弥希将見毛

[訓読]大君の塩焼く海人の藤衣なれはすれどもいやめづらしも

[仮名],おほきみの,しほやくあまの,ふぢころも,なれはすれども,いやめづらしも

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,序詞,衣,恋愛




2972

[題詞](寄物陳思)


[原文]赤帛之 純裏衣 長欲 我念君之 不所見比者鴨

[訓読]赤絹の純裏の衣長く欲り我が思ふ君が見えぬころかも

[仮名],あかきぬの,ひたうらのきぬ,ながくほり,あがおもふきみが,みえぬころかも

[左注]

[校異]

[KW],衣,序詞,女歌,恋愛,不安




2973

[題詞](寄物陳思)


[原文]真玉就 越乞兼而 結鶴 言下紐之 <所>解日有米也

[訓読]真玉つくをちこち兼ねて結びつる我が下紐の解くる日あらめや

[仮名],またまつく,をちこちかねて,むすびつる,わがしたびもの,とくるひあらめや

[左注]

[校異]之 [西(朱書消去)] / <> 

 所 [西(朱筆右書)][元][類][古]

[KW],枕詞,恋愛,後朝,紐




2974

[題詞](寄物陳思)


[原文]紫 帶之結毛 解毛不見 本名也妹尓 戀度南

[訓読]紫の帯の結びも解きもみずもとなや妹に恋ひわたりなむ

[仮名],むらさきの,おびのむすびも,ときもみず,もとなやいもに,こひわたりなむ

[左注]

[校異]

[KW],帯,恋情




2975

[題詞](寄物陳思)


[原文]高麗錦 紐之結毛 解不放 齊而待杼 驗無可聞

[訓読]高麗錦紐の結びも解き放けず斎ひて待てど験なきかも

[仮名],こまにしき,ひものむすびも,ときさけず,いはひてまてど,しるしなきかも

[左注]

[校異]

[KW],紐,恋情




2976

[題詞](寄物陳思)


[原文]紫 我下紐乃 色尓不出 戀可毛将痩 <相>因乎無見

[訓読]紫の我が下紐の色に出でず恋ひかも痩せむ逢ふよしをなみ

[仮名],むらさきの,わがしたひもの,いろにいでず,こひかもやせむ,あふよしをなみ

[左注]

[校異]<> 

 相 [西(右書)][元][類][紀]

[KW],紐,恋情,序詞




2977

[題詞](寄物陳思)


[原文]何故可 不思将有 紐緒之 心尓入而 戀布物乎

[訓読]何ゆゑか思はずあらむ紐の緒の心に入りて恋しきものを

[仮名],なにゆゑか,おもはずあらむ,ひものをの,こころにいりて,こほしきものを

[左注]

[校異]

[KW],紐,枕詞,恋情




2978

[題詞](寄物陳思)


[原文]真十鏡 見座吾背子 吾形見 将持辰尓 将不相哉

[訓読]まそ鏡見ませ我が背子我が形見待てらむ時に逢はざらめやも

[仮名],まそかがみ,みませわがせこ,わがかたみ,まてらむときに,あはざらめやも

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情,女歌,鏡




2979

[題詞](寄物陳思)


[原文]真十鏡 直目尓君乎 見者許増 命對 吾戀止目

[訓読]まそ鏡直目に君を見てばこそ命に向ふ我が恋やまめ

[仮名],まそかがみ,ただめにきみを,みてばこそ,いのちにむかふ,あがこひやまめ

[左注]

[校異]

[KW],鏡,女歌,恋情,枕詞




2980

[題詞](寄物陳思)


[原文]犬馬鏡 見不飽妹尓 不相而 月之經去者 生友名師

[訓読]まそ鏡見飽かぬ妹に逢はずして月の経ゆけば生けりともなし

[仮名],まそかがみ,みあかぬいもに,あはずして,つきのへゆけば,いけりともなし

[左注]

[校異]

[KW],鏡,枕詞,恋情




2981

[題詞](寄物陳思)


[原文]祝部等之 齊三諸乃 犬馬鏡 懸而偲 相人毎

[訓読]祝部らが斎くみもろのまそ鏡懸けて偲ひつ逢ふ人ごとに

[仮名],はふりらが,いつくみもろの,まそかがみ,かけてしのひつ,あふひとごとに

[左注]

[校異]

[KW],鏡,序詞,恋情




2982

[題詞](寄物陳思)


[原文]針者有杼 妹之無者 将著哉跡 吾乎令煩 絶紐之緒

[訓読]針はあれど妹しなければ付けめやと我れを悩まし絶ゆる紐の緒

[仮名],はりはあれど,いもしなければ,つけめやと,われをなやまし,たゆるひものを

[左注]

[校異]

[KW],恋愛,針,紐




2983

[題詞](寄物陳思)


[原文]高麗劔 己之景迹故 外耳 見乍哉君乎 戀渡奈牟

[訓読]高麗剣我が心から外のみに見つつや君を恋ひわたりなむ

[仮名],こまつるぎ,わがこころから,よそのみに,みつつやきみを,こひわたりなむ

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,女歌,剣,恋情




2984

[題詞](寄物陳思)


[原文]劔大刀 名之惜毛 吾者無 比来之間 戀之繁尓

[訓読]剣大刀名の惜しけくも我れはなしこのころの間の恋の繁きに

[仮名],つるぎたち,なのをしけくも,われはなし,このころのまの,こひのしげきに

[左注]

[校異]

[KW],剣,枕詞,恋情,人目,うわさ




2985

[題詞](寄物陳思)


[原文]梓弓 末者師不知 雖然 真坂者<君>尓 縁西物乎

[訓読]梓弓末はし知らずしかれどもまさかは君に寄りにしものを

[仮名],あづさゆみ,すゑはししらず,しかれども,まさかはきみに,よりにしものを

[左注]一本歌曰 梓弓 末乃多頭吉波 雖不知 心者君尓 因之物乎

[校異]吾 

 君 [類][紀][細]

[KW],枕詞,弓,枕詞,恋情




2985S

[題詞](寄物陳思)一本歌曰


[原文]梓弓 末乃多頭吉波 雖不知 心者君尓 因之物乎

[訓読]梓弓末のたづきは知らねども心は君に寄りにしものを

[仮名],あづさゆみ,すゑのたづきは,しらねども,こころはきみに,よりにしものを

[左注]

[校異]

[KW],弓,枕詞,女歌,恋情,異伝




2986

[題詞](寄物陳思)


[原文]梓弓 引見<緩>見 思見而 既心齒 因尓思物乎

[訓読]梓弓引きみ緩へみ思ひみてすでに心は寄りにしものを

[仮名],あづさゆみ,ひきみゆるへみ,おもひみて,すでにこころは,よりにしものを

[左注]

[校異]縦 

 緩 [西(貼紙)]

[KW],弓,枕詞,恋情




2987

[題詞](寄物陳思)


[原文]梓弓 引而不<緩> 大夫哉 戀云物乎 忍不得牟

[訓読]梓弓引きて緩へぬ大夫や恋といふものを忍びかねてむ

[仮名],あづさゆみ,ひきてゆるへぬ,ますらをや,こひといふものを,しのびかねてむ

[左注]

[校異]縦 

 緩 [西(貼紙)][元][類]

[KW],弓,恋情,枕詞




2988

[題詞](寄物陳思)


[原文]梓弓 末中一伏三起 不通有之 君者會奴 嗟羽将息

[訓読]梓弓末の中ごろ淀めりし君には逢ひぬ嘆きはやめむ

[仮名],あづさゆみ,すゑのなかごろ,よどめりし,きみにはあひぬ,なげきはやめむ

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情,弓




2989

[題詞](寄物陳思)


[原文]今更 何壮鹿将念 梓弓 引見縦見 縁西鬼乎

[訓読]今さらに何をか思はむ梓弓引きみ緩へみ寄りにしものを

[仮名],いまさらに,なにをかおもはむ,あづさゆみ,ひきみゆるへみ,よりにしものを

[左注]

[校異]縦 [元][類](塙) 弛

[KW],弓,枕詞,恋情




2990

[題詞](寄物陳思)


[本文]D嬬等之 <續>麻之多<田>有 打麻<懸> 續時無<三> 戀度鴨

[訓読]娘子らが績み麻のたたり打ち麻懸けうむ時なしに恋ひわたるかも

[仮名],をとめらが,うみをのたたり,うちそかけ,うむときなしに,こひわたるかも

[左注]

[校異]漬 

 續 [西(訂正右書)][元][類][古][紀] / 患 
 田 [元][類][古][紀] / <> 
懸 [西(補筆訂正)][元][類][古][紀] / 三 
 二 [類][古][紀]

[KW],序詞,麻,恋情




2991

[題詞](寄物陳思)


[原文]垂乳根之 母我養蚕乃 眉隠 馬聲蜂音石花蜘ろ荒鹿 異母二不相而

[訓読]たらちねの母が飼ふ蚕の繭隠りいぶせくもあるか妹に逢はずして

[仮名],たらちねの,ははがかふこの,まよごもり,いぶせくもあるか,いもにあはずして

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,繭,恋情,戯書




2992

[題詞](寄物陳思)


[原文]玉手次 不懸者辛苦 懸垂者 續手見巻之 欲寸君可毛

[訓読]玉たすき懸けねば苦し懸けたれば継ぎて見まくの欲しき君かも

[仮名],たまたすき,かけねばくるし,かけたれば,つぎてみまくの,ほしききみかも

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,襷,枕詞




2993

[題詞](寄物陳思)


[原文]紫 綵色之蘰 花八香尓 今日見人尓 後将戀鴨

[訓読]紫のまだらのかづら花やかに今日見し人に後恋ひむかも

[仮名],むらさきの,まだらのかづら,はなやかに,けふみしひとに,のちこひむかも

[左注]

[校異]

[KW],恋情,序詞




2994

[題詞](寄物陳思)


[原文]玉蘰 不懸時無 戀<友> 何如妹尓 相時毛名寸

[訓読]玉葛懸けぬ時なく恋ふれども何しか妹に逢ふ時もなき

[仮名],たまかづら,かけぬときなく,こふれども,なにしかいもに,あふときもなき

[左注]

[校異]支 

 友 [元][類][紀][細]

[KW],枕詞,恋情




2995

[題詞](寄物陳思)


[原文]相因之 出来左右者 疊薦 重編數 夢西将見

[訓読]逢ふよしの出でくるまでは畳薦隔て編む数夢にし見えむ

[仮名],あふよしの,いでくるまでは,たたみこも,へだてあむかず,いめにしみえむ

[左注]

[校異]

[KW],比喩,植物,恋情




2996

[題詞](寄物陳思)


[原文]白香付 木綿者花物 事社者 何時之真枝毛 常不所忘

[訓読]しらかつく木綿は花もの言こそばいつのまえだも常忘らえね

[仮名],しらかつく,ゆふははなもの,ことこそば,いつのまえだも,つねわすらえね

[左注]

[校異]枝 [万葉考](塙)(楓) 坂

[KW],植物,枕詞,怨恨,




2997

[題詞](寄物陳思)


[原文]石上 振之高橋 高々尓 妹之将待 夜曽深去家留

[訓読]石上布留の高橋高々に妹が待つらむ夜ぞ更けにける

[仮名],いそのかみ,ふるのたかはし,たかたかに,いもがまつらむ,よぞふけにける

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,序詞,地名,天理,奈良県,恋愛




2998

[題詞](寄物陳思)


[原文]湊入之 葦別小船 障多 今来吾乎 不通跡念莫

[訓読]港入りの葦別け小舟障り多み今来む我れを淀むと思ふな

[仮名],みなといりの,あしわけをぶね,さはりおほみ,いまこむわれを,よどむとおもふな

[左注]或本歌曰 湊入尓 蘆別小船 障多 君尓不相而 年曽經来

[校異]

[KW],序詞,恋情,植物




2998S

[題詞](寄物陳思)或本歌曰


[原文]湊入尓 蘆別小船 障多 君尓不相而 年曽經来

[訓読]港入りに葦別け小舟障り多み君に逢はずて年ぞ経にける

[仮名],みなといりに,あしわけをぶね,さはりおほみ,きみにあはずて,としぞへにける

[左注]

[校異]

[KW],異伝,植物,恋情,女歌




2999

[題詞](寄物陳思)


[原文]水乎多 上尓種蒔 比要乎多 擇擢之業曽 吾獨宿

[訓読]水を多み上田に種蒔き稗を多み選らえし業ぞ我がひとり寝る

[仮名],みづをおほみ,あげにたねまき,ひえをおほみ,えらえしわざぞ,わがひとりぬる

[左注]

[校異]

[KW],植物,比喩,怨恨




3000

[題詞](寄物陳思)


[原文]霊合者 相宿物乎 小山田之 鹿猪田禁如 母之守為裳 [一云 母之守之師]

[訓読]魂合へば相寝るものを小山田の鹿猪田守るごと母し守らすも [一云 母が守らしし]

[仮名],たまあへば,あひぬるものを,をやまだの,ししだもるごと,ははしもらすも,[ははがもらしし]

[左注]

[校異]

[KW],異伝,動物,障害,恋愛




3001

[題詞](寄物陳思)


[原文]春日野尓 照有暮日之 外耳 君乎相見而 今曽悔寸

[訓読]春日野に照れる夕日の外のみに君を相見て今ぞ悔しき

[仮名],かすがのに,てれるゆふひの,よそのみに,きみをあひみて,いまぞくやしき

[左注]

[校異]

[KW],地名,奈良,序詞,後悔,恋愛




3002

[題詞](寄物陳思)


[原文]足日木乃 従山出流 月待登 人尓波言而 妹待吾乎

[訓読]あしひきの山より出づる月待つと人には言ひて妹待つ我れを

[仮名],あしひきの,やまよりいづる,つきまつと,ひとにはいひて,いもまつわれを

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋愛




3003

[題詞](寄物陳思)


[原文]夕月夜 五更闇之 不明 見之人故 戀渡鴨

[訓読]夕月夜暁闇のおほほしく見し人ゆゑに恋ひわたるかも

[仮名],ゆふづくよ,あかときやみの,おほほしく,みしひとゆゑに,こひわたるかも

[左注]

[校異]

[KW],序詞,恋情




3004

[題詞](寄物陳思)


[原文]久堅之 天水虚尓 照<月>之 将失日社 吾戀止目

[訓読]久方の天つみ空に照る月の失せなむ日こそ我が恋止まめ

[仮名],ひさかたの,あまつみそらに,てるつきの,うせなむひこそ,あがこひやまめ

[左注]

[校異]日 

 月 [西(右書)][元][類]

[KW],枕詞,恋情




3005

[題詞](寄物陳思)


[原文]十五日 出之月乃 高々尓 君乎座而 何物乎加将念

[訓読]十五日に出でにし月の高々に君をいませて何をか思はむ

[仮名],もちのひに,いでにしつきの,たかたかに,きみをいませて,なにをかおもはむ

[左注]

[校異]

[KW],序詞,恋情




3006

[題詞](寄物陳思)


[原文]月夜好 門尓出立 足占為而 徃時禁八 妹二不相有

[訓読]月夜よみ門に出で立ち足占して行く時さへや妹に逢はずあらむ

[仮名],つくよよみ,かどにいでたち,あしうらして,ゆくときさへや,いもにあはずあらむ

[左注]

[校異]

[KW],恋情,不安,占い




3007

[題詞](寄物陳思)


[原文]野干玉 夜渡月之 清者 吉見而申尾 君之光儀乎

[訓読]ぬばたまの夜渡る月のさやけくはよく見てましを君が姿を

[仮名],ぬばたまの,よわたるつきの,さやけくは,よくみてましを,きみがすがたを

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情,後朝,女歌




3008

[題詞](寄物陳思)


[原文]足引之 山<呼>木高三 暮月乎 何時君乎 待之苦沙

[訓読]あしひきの山を木高み夕月をいつかと君を待つが苦しさ

[仮名],あしひきの,やまをこだかみ,ゆふつきを,いつかときみを,まつがくるしさ

[左注]

[校異]乎 

 呼 [元][細][矢][京]

[KW],枕詞,恋情,序詞,女歌




3009

[題詞](寄物陳思)


[原文]橡之 衣解洗 又打山 古人尓者 猶不如家利

[訓読]橡の衣解き洗ひ真土山本つ人にはなほしかずけり

[仮名],つるはみの,きぬときあらひ,まつちやま,もとつひとには,なほしかずけり

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,植物,地名,和歌山,序詞,恋愛




3010

[題詞](寄物陳思)


[原文]佐保川之 川浪不立 静雲 君二副而 明日兼欲得

[訓読]佐保川の川波立たず静けくも君にたぐひて明日さへもがも

[仮名],さほがはの,かはなみたたず,しづけくも,きみにたぐひて,あすさへもがも

[左注]

[校異]

[KW],地名,奈良,序詞,女歌,恋愛




3011

[題詞](寄物陳思)


[原文]吾妹兒尓 衣借香之 宜寸川 因毛有額 妹之目乎将見

[訓読]我妹子に衣春日の宜寸川よしもあらぬか妹が目を見む

[仮名],わぎもこに,ころもかすがの,よしきがは,よしもあらぬか,いもがめをみむ

[左注]

[校異]

[KW],地名,奈良,序詞,恋情




3012

[題詞](寄物陳思)


[原文]登能雲入 雨零川之 左射礼浪 間無毛君者 所念鴨

[訓読]との曇り雨布留川のさざれ波間なくも君は思ほゆるかも

[仮名],とのぐもり,あめふるかはの,さざれなみ,まなくもきみは,おもほゆるかも

[左注]

[校異]

[KW],序詞,恋情




3013

[題詞](寄物陳思)


[原文]吾妹兒哉 安乎忘為莫 石上 袖振川之 将絶跡念倍也

[訓読]我妹子や我を忘らすな石上袖布留川の絶えむと思へや

[仮名],わぎもこや,あをわすらすな,いそのかみ,そでふるかはの,たえむとおもへや

[左注]

[校異]

[KW],地名,天理,奈良,序詞,恋情




3014

[題詞](寄物陳思)


[原文]神山之 山下響 逝水之 水尾不絶者 後毛吾妻

[訓読]三輪山の山下響み行く水の水脈し絶えずは後も我が妻

[仮名],みわやまの,やましたとよみ,ゆくみづの,みをしたえずは,のちもわがつま

[左注]

[校異]

[KW],地名,桜井,奈良,序詞,恋愛




3015

[題詞](寄物陳思)


[原文]如神 所聞瀧之 白浪乃 面知君之 不所見比日

[訓読]神のごと聞こゆる瀧の白波の面知る君が見えぬこのころ

[仮名],かみのごと,きこゆるたきの,しらなみの,おもしるきみが,みえぬこのころ

[左注]

[校異]

[KW],序詞,女歌,恋愛




3016

[題詞](寄物陳思)


[原文]山川之 瀧尓益流 戀為登曽 人知尓来 無間念者

[訓読]山川の瀧にまされる恋すとぞ人知りにける間なくし思へば

[仮名],やまがはの,たきにまされる,こひすとぞ,ひとしりにける,まなくしおもへば

[左注]

[校異]

[KW],人目,うわさ,恋情




3017

[題詞](寄物陳思)


[原文]足桧木之 山川水之 音不出 人之子め 戀渡青頭鶏

[訓読]あしひきの山川水の音に出でず人の子ゆゑに恋ひわたるかも

[仮名],あしひきの,やまがはみづの,おとにいでず,ひとのこゆゑに,こひわたるかも

[左注]

[校異]桧木 [元][類][古](塙) 桧

[KW],枕詞,うわさ,序詞,恋情




3018

[題詞](寄物陳思)


[原文]高湍尓有 能登瀬乃川之 後将合 妹者吾者 今尓不有十万

[訓読]高湍なる能登瀬の川の後も逢はむ妹には我れは今にあらずとも

[仮名],たかせなる,のとせのかはの,のちもあはむ,いもにはわれは,いまにあらずとも

[左注]

[校異]

[KW],地名,奈良,近江,滋賀県,序詞,恋情




3019

[題詞](寄物陳思)


[原文]浣衣 取替河之 <河>余杼能 不通牟心 思兼都母

[訓読]洗ひ衣取替川の川淀の淀まむ心思ひかねつも

[仮名],あらひきぬ,とりかひがはの,かはよどの,よどまむこころ,おもひかねつも

[左注]

[校異]川 

 河 [元][古][紀]

[KW],地名,摂津,大阪,奈良,序詞,恋愛




3020

[題詞](寄物陳思)


[原文]斑鳩之 因可<乃>池之 宜毛 君乎不言者 念衣吾為流

[訓読]斑鳩の因可の池のよろしくも君を言はねば思ひぞ我がする

[仮名],いかるがの,よるかのいけの,よろしくも,きみをいはねば,おもひぞわがする

[左注]

[校異]及 

 乃 [元][類][古][紀]

[KW],地名,奈良,序詞,うわさ,恋愛




3021

[題詞](寄物陳思)


[原文]絶沼之 下従者将戀 市白久 人之可知 歎為米也母

[訓読]隠り沼の下ゆは恋ひむいちしろく人の知るべく嘆きせめやも

[仮名],こもりぬの,したゆはこひむ,いちしろく,ひとのしるべく,なげきせめやも

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,うわさ,人目,恋情




3022

[題詞](寄物陳思)


[原文]去方無三 隠有小沼乃 下思尓 吾曽物念 頃者之間

[訓読]ゆくへなみ隠れる小沼の下思に我れぞ物思ふこのころの間

[仮名],ゆくへなみ,こもれるをぬの,したもひに,われぞものもふ,このころのあひだ

[左注]

[校異]

[KW],序詞,恋情




3023

[題詞](寄物陳思)


[原文]隠沼乃 下従戀餘 白浪之 灼然出 人之可知

[訓読]隠り沼の下ゆ恋ひあまり白波のいちしろく出でぬ人の知るべく

[仮名],こもりぬの,したゆこひあまり,しらなみの,いちしろくいでぬ,ひとのしるべく

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,恋情,うわさ,人目




3024

[題詞](寄物陳思)


[原文]妹目乎 見巻欲江之 小浪 敷而戀乍 有跡告乞

[訓読]妹が目を見まく堀江のさざれ波しきて恋ひつつありと告げこそ

[仮名],いもがめを,みまくほりえの,さざれなみ,しきてこひつつ,ありとつげこそ

[左注]

[校異]

[KW],地名,大阪,掛詞,序詞,恋情




3025

[題詞](寄物陳思)


[原文]石走 垂水之水能 早敷八師 君尓戀良久 吾情柄

[訓読]石走る垂水の水のはしきやし君に恋ふらく我が心から

[仮名],いはばしる,たるみのみづの,はしきやし,きみにこふらく,わがこころから

[左注]

[校異]

[KW],枕詞,序詞,恋情




3026

[題詞](寄物陳思)


[原文]君者不来 吾者故無 立浪之 敷和備思 如此而不来跡也

[訓読]君は来ず我れは故なみ立つ波のしくしくわびしかくて来じとや

[仮名],きみはこず,われはゆゑなみ,たつなみの,しくしくわびし,かくてこじとや

[左注]

[校異]

[KW],序詞,恋情,女歌,不安,怨恨




3027

[題詞](寄物陳思)


[原文]淡海之海 邊多波人知 奥浪 君乎置者 知人毛無

[訓読]近江の海辺は人知る沖つ波君をおきては知る人もなし

[仮名],あふみのうみ,へたはひとしる,おきつなみ,きみをおきては,しるひともなし

[左注]

[校異]

[KW],地名,滋賀県,比喩,恋情




3028

[題詞](寄物陳思)


[原文]大海之 底乎深目而 結<義>之 妹心者 疑毛無

[訓読]大海の底を深めて結びてし妹が心はうたがひもなし

[仮名],おほうみの,そこをふかめて,むすびてし,いもがこころは,うたがひもなし

[左注]

[校異]美 

 義 [西(貼紙)][元][類][紀][細]

[KW],掛詞,恋愛




3029

[題詞](寄物陳思)


[原文]貞能b尓 依流白浪 無間 思乎如何 妹尓難相

[訓読]佐太の浦に寄する白波間なく思ふを何か妹に逢ひかたき

[仮名],さだのうらに,よするしらなみ,あひだなく,おもふをなにか,いもにあひかたき

[左注]

[校異]b [元][細] 納

[KW],地名,序詞,恋

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